カウンセリングサービス■心理学講座「許しと手放しの心理学」
誰にでも一人はいる許せない誰か。
それはあなたを傷つけた人かもしれないし、また、あなたが傷つけたと思っている人かもしれません。
もちろん、そうした痛みや、そこから生まれる怒りや不信感、罪悪感、無価値感、無力感などのネガティブな感情はとても強く自分を苦しめます。
そして、時には、自分自身がより良くなること、ステップアップすること、成長することに対して大きなブレーキになってしまうこともあるでしょう。
過去の大失恋がきっかけで恋をすることが怖くなってしまったとしたら、街行くカップルを見ながら虚しさに襲われたり、嫉妬してしまうかもしれません。
過去のいじめが原因で人とうまく付き合えなくなったとしたら、あなたをいじめた人を許そうとは思えないでしょう。
そして、今はもういじめが無くなったとしても、その影響を強く今に引き継いでしまいます。
●許しの目的
"許し"とは痛みを手放し、癒していくとてもパワフルで効果的なアプローチです。
今の問題を解決する上では、あなたが許していない誰かを許していくことが求められることが少なくありません。
例えば、あなたが今、なかなか恋愛がうまく行かない状況で、付き合う人に対していつも不信感を抱いて関係性を壊してしまうことが少なからずあったとします。
恋愛のパターンを遡っていくと、いつも仕事ばかりで家庭を省みないお父さんの存在が浮かび上がってきたとします。(これは千差万別で必ずしもお父さんとの関係が原因ではありませんが良くお目にかかるパターンのひとつです。)
そうすると、ある程度は対症療法的にコミュニケーションを変えたり、出会いの場を意識的に作り出したり、相手の気を引くテクニックを学んだりするなどして対応できたとしても、お父さんに対して潜在的に抱えてしまった不信感がなくならなければ、男性を心から信頼することは難しくなることもあります。
だとしたら、そこでの目標は「あなたに関心を示さなかったお父さんを許すこと」になります。
それはお父さんとの現在の関係性を良くすることにも繋がりますが、何よりも、あなたにとって素敵な恋愛をするためには効果的なアプローチとなるでしょう。
●許せない訳
だからといって、今すぐに許せるくらいならば、そもそも問題を抱えたりはしないと思います。
許せない、感情的な理由がそこにはたくさん眠っています。
痛みはもちろん、怒り、不信感、罪悪感、無価値感、無力感など、その状況、その関係性によって色んな感情が許しに抵抗を示します。
また、意識できるものもあれば、感じられない痛み、麻痺してしまった感情もあります。
例えば、小さいころから寂しさを感じ続けていたとしたら、寂しい状況が当たり前になって、"寂しさ"を感じられなくなったりします。
僕もカウンセラーになった頃、「寂しさってどんな感情だったっけ?」と、長らく感情を抑えてきたことに気付いたことがあります。
そうした抑圧された感情は意識できない心の痛みとして心の奥底に封印されてしまいます。
でも、無くなったわけではないので、男女関係や対人関係などの問題として"今"に影響を及ぼすようになります。
子どもはその環境に一生懸命適応しようとしますから、自分の感情を抑圧することは、生きる上では大切な要素になることは少なくないんです。
例えば、子どもの頃、お父さんが忙しく、あまり愛された経験がないと感じている女性がいるとしましょう。
彼女の中ではお父さんに距離を感じていますから、子どもの頃は寂しかったり、甘えたい欲求を我慢していたのかもしれません。
大人になるにつれて、その我慢が当たり前になり、心の中に抑圧されていきます。
そうすると自分がお父さんに甘えたかったなんて、あまり感じなくなるんですね。
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でも、甘えたい自分はその時点で成長を止めてしまったかのようになります。
そうすると、大人になってもその頃の心のまま、男性に対して近づけず、心を開けなくなることもあるでしょうし、甘えられる相手を見つけた時には、幼児言葉になってその時代を取り戻そうとしてしまったりします。
また、自分の意識では彼氏が欲しくて、恋愛もしたいのに、いざ、男性を目の前にすると怖くて何も話せなくなったり、付き合うことになってもより親密な関係に抵抗を覚えるかもしれません。
「本当に私はこの人が好きなんだろうか?」って思ってみたり、また逆に「この人に私は愛されているんだろうか?」って不安になることもあるでしょう。
そこでは、傷ついた自分を受け入れ、認め、傷つけた相手(この場合は"お父さん")を許すプロセスが必要になるのかもしれません。
「何をいまさら・・・」と感じたり、「お父さんにそんな思いは持ってないのになあ?」と感じるかもしれませんが、その影響を今に引き継いでいるとしたら、やはり、苦しいのは自分自身です。
「許し」のプロセスは心の準備ができてから取り掛かっても遅くはありません。
僕も色々なお話を伺いますが、いきなり最初から「許し」を提案することはあまりありません。
でも、もし、今の問題を乗り越えるのに必要だと思ったとしたら、この「許し」を"目標"として持つことは、とても有効なアプローチになるのではないでしょうか。
●許しと手放しのプロセス
許しのプロセスを大まかにご紹介したいと思います。
全員が、あるいはすべての問題でこのプロセスを経るわけではありません。
中には「許そう!」と決めた瞬間に手放せてしまう方もいらっしゃいます。
「時間が解決する」という言葉の意味は、自分が成長し、色々な経験をしていく上で、自然と許しと手放しのプロセスを経ていくことを指すのかもしれません。
一つ一つのプロセスを、自分なりのペースで進めていくことが大切だと思います。
1.許せない自分に気付く、受け入れる
許しが必要な場面では、当然のように感情的な抵抗を抱きます。
「どうして私がお父さんを許さなきゃいけないの?」
「どうして私をこんな目に合わせた元彼を許さなきゃいけないの?」
そうした強い怒りや衝動となって湧き上がってくることもあるでしょう。
許しのプロセスの第一段階は、まずは、そこからスタートします。
例えば、お父さんを許すプロセスがスタートするのは、今現在お父さんを許せていない自分自身がいるわけです。
(当たり前のことですが、とても大切なことです)
だから、まずはその自分(その感情)と向き合うことが第一歩になります。
それくらいの怒りを感じている、あるいは、そうした自分を嫌悪している、など、様々な感情が心の中を巡ります。
そうしたネガティブな感情を感じ続けるのは、それ自体が苦しいことですから、できるだけ感じないように目を背けたくなります。
でも、そこから逃げてしまったとしても、その痛みはなくなるわけではなく、視界から消えるだけです。
まるで洋服に付いたソースのシミを見ないようにしていても、消えてなくなるわけではないのと同じです。
ですから、まずは、その「許せない」と思っている自分と向き合っていきましょう。
それには自分がそうした感情を持っていることをただ受け入れてあげること、認めてあげることです。
だから「なんであの人を許さなきゃいけないのよ」と感じたとしたら、そのままでOKです。
それが許しへの一歩目となるのです。
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十分そこで怒りを感じていいですし、悔しくて、悲しくて、寂しくてもいいです。
その感情と向き合っていくことで、その感情は解放され、手放せていけます。
だから、ちょっとしんどい時には誰かのサポートが必要かもしれません。
一人で頑張ってみても難しく感じることが多いと思いますから。
一方、心がシーンとなって何も感じないかもしれません。
それも「何も感じない」という心の状態ですから、そこを無理やり穿り返すことは必要ありません。
「何も感じない」ということをただ感じ続けてみましょう。
それが次の感情の解放へと繋がります。
2.感情を解放する
感情を解放するには、その感情をただ感じてあげることで抜け出せます。
怒りがあるのならば、怒りを感じることが大切なんです。
でも、それはとても勇気がいることだし、怖いことでもあります。
また、こうした心理学講座などを読んでいたり、実際にカウンセリングを受けたりすると、「お父さんを許さなきゃ」という気持ちになることもあります。
その「〜しなければ」という強い表現は"観念"といって、自分自身を縛るものになります。
だから、「許さなきゃいけない」と思っていると、プレッシャーや焦りは感じるだけで、それ以上先に進めなくなることも多いんですね。
そういう意味でも、「許せない自分」「怒りや痛みを感じている自分」と向き合い、その感情を解放していくことが最初のステップとなるんです。
感情を感じる方法というのはセラピーを使うのもその一つですが、自分なりにやってみたい方は、その人に対するお手紙を書いてみたり、今の気持ちをノートなどに書きなぐってみたりしてもいいでしょう。
話したり、書いたりすることは感情の解放には良いアプローチの一つなんです。
ただ、ノートに書きなぐる、手紙を書くって方法は中途半端ではかえって逆効果です。
その感情が解放され、ホッとした気持ちになるまで続けることが必要なんですね。
(だから、一人でやるのはなかなか難しく感じるものです)
また、自分の気持ちにぴったりの歌を見つけたら、カラオケやお風呂で大声で歌ってみてもいいでしょう。
セラピーではイメージを使ったりしながら、感情を解放しやすい状況を作っています。
どんな方法を使ったとしても、感じた分だけ、その感情は抜けていきます。
そうすると少しすっきりした気分、ほっとした気分に出会えます。
それが「感情の解放」というものです。
3.理解と受容
そして、ある程度感情を解放してあげたら、その相手を受け入れていく余裕が自然と心に生まれてきます。
それはコップにいっぱい詰まってた水を少し抜いて、上の方に空間ができたような感じです。
そこでは新しい見方、考え方、感じ方を取り入れることができるようになります。
例えば、
「どうしてお父さんはそうなってしまったんだろう?」
「もし、自分が同じ態度を人に取るとしたら、その時自分はどのような心理状態なんだろう?」
という風に。
私達には想像力というものがありますから、それを駆使して色んな可能性をシミュレーションすることができます。
こうしたシミュレーションは「相手を理解する」上ではとても効果的なチャレンジになっていくんですね。
(注:ただ、このシミュレーションは1、2のステップをある程度経てからチャレンジすることをお勧めします。感情がいっぱいいっぱいの状態だと、頭だけで考えて空回りしてしまうことも多いと思います)
そうすると、その相手の痛みが感情的に理解でき、受け入れることができるようになります。
そう、頭(理屈)で理解するのではなく、感情的な理解、受容が進んでいくんですね。
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時には、お父さんの痛みに共感して涙が溢れてくることだってあるでしょう。
(そんな時には、もう許しはだいぶ進んでいるといって過言ではありません)
カウンセリングの中で、この理解と受容を扱うイメージセラピーをしていくと、怖れがありつつもお父さんに近づき、そして、ただ抱き締めてあげることができるようになります。
そこでは、怒りと愛情が混じったような複雑な気持ちになることもありますし、近づけば近づくほど悲しみが湧き出てきたり、あるいは満たされなかった依存心(甘えたい気持ちや恨み、憎しみ)が出てきたりします。
その感情が出てきたとしたら、やはり、その感情を感じていくことで、再び解放してあげることができますし、そして、再び一歩先に進んだ自分に出会えるでしょう。
4.手放し
ここまで来ると、その関係性で生まれた痛みを手放すことができるようになります。
痛みを手放すということは、同時に、そこから生まれた自分自身のパターンを手放すことにも繋がります。
理解、受容のプロセスが進んだ時点では、ほぼその相手を許すことについては完了していますから、ここで手放すのは、今の自分自身の行動パターンです。
根っこを絶ったので変えやすい状況にはありますが、チャレンジしてみないと今の状況が変わったかどうかも確認することができませんよね。
例えば、お父さんを少しでも許すことができたとしたら、男性に対する不信感も多少はマシになってるはずです。
でも、それは男性とお話したり、関係を深めてみないと確認しようがないものです。
だから、思い切って気になる人に声をかけたり、お付き合いしてみることも大切なチャレンジになります。
でも、いきなりうまく行くことばかりではありません。
やっぱり出来なかった、失敗した、ということも出てくるでしょう。
でも、本当に何も変わってないんでしょうか?
きっとあなたがお父さんと向き合い、許せた分だけ、何かが変わっているはずです。
私たちは自信のないことに対しては「できて当たり前、できなかったら自己攻撃」と自分の変化、成長を認めてあげることがしにくいものです。
前は男性の前に出たら顔を上げられなかったけれど、今は目を見て1分話ができる、としたら、それは大きな前進ではないかと思うんです。
1分できたら、次は2分が目標ですね。
2分ができたら5分、その次は10分、1時間と少しずつチャレンジすることで「男性の目を見て話ができない」というパターンを変えていくことができます。
いわば、お父さんを許すことは、そこから生まれたパターンを変えるための下地を作ることになるのかもしれません。
5.受け取る
許しという大きなチャレンジをした後には、必ず何らかのギフトが贈られてきます。
それは今まで眠っていた才能が開花するかのようなもので、自分自身に大きな変化や成長を感じさせてくれるものです。
ここでは、ただそのギフトを"受け取る"ことが大切です。
でも、これが怖いんですよね。
ただ流れに身を任すような、来るもの拒まず、ただ受け取るだけ、という姿勢でよりステップアップすることができます。
今までは苦しい感情と向き合い、解放し、乗り越えて来たので、ここからは180度やり方を変えて、ただ来たものを受け取っていきます。
たとえば、上でお話した男性と目を見て話せなかったパターンが変わっていくと、その分だけ自信を感じやすくなっていきます。
「前は全然男性と話せなかったのに、今はけっこう普通に話せる」
としたら、徐々に男性とお話しすることが楽しくもなっていきます。
この「楽しさ」や「自信」がギフトになるんですね。
楽しみや喜びを感じられるようになってきたら、後はどんどん変化が現れてきます。
今まではあまり愛情を示さない男性ばかりとお付き合いしてきたのに、とても優しい男性と巡り合うことだってあります。
そうすると、今までは大の苦手だと思っていたものを克服することができるようになるんです。
●疲れたら休むこと、そして、再びチャレンジすること
実際、一回のセラピーや、一通り上記のプロセスを経たからといって、完璧に相手を許せることはまずありません。
一度うまく行っても、翌週にはまた新たな痛みを思い出し、再び恨み辛みを抱え込んでしまうことも珍しいことではありません。
許しのプロセスは、洋服のシミ抜きをするようなもので、少しずつ少しずつ薄れていきます。
ただ一度でも癒しのプロセスを経験していおくと、言わば「道」が出来たようなものですので、二度目以降のチャレンジにはある程度の自信を持って向かうことができます。
それはまるで逆上がりの練習をするようなものかもしれません。
なかなかうまく行かなかったけれど、チャレンジし続けていたら、あるとき、ふっと一回成功したりします。
でも、次にもう一度逆上がりをしてみると、また失敗します。
ところが、一度うまく出来たとしたら、それが自信になってますから、改めてチャレンジする気持ちは最初の時よりもずっと楽でしょう。
実はこうした経験はほとんどの方が実際にされてるんですよ。
ハイハイから歩き出した赤ちゃんは何度も何度も転びます。
自転車も最初から補助輪なしで乗れるわけではありませんよね。
だから、地道に何度も何度もチャレンジすることが大事なんですよ。
カウンセリングを進めて行くと「また元の自分に戻ったような感じ」とか「何も変わっていないような感じ」とか「振り出しに戻っちゃったような感じ」になることも少なくありません。
でも、それは戻ってしまったのではなく、まるで螺旋階段をぐるっと一周したようなものなんですね。
つまり、上から見れば同じところに戻ってきたように感じるけれど、横から見れば確実に1階分ステップアップしてるわけです。
一方で「また、オヤジを許さなきゃいけないのかよー。もういい加減疲れたよー」という気分になることもあります。
そういう時は、きっと一休みする時です。
休憩することを自分自身に許してあげるとき、そして、一旦はその許しを横において、今のあなた自身を変える別のチャレンジするときかもしれません。
例えば、今の自分をキレイにしてあげる、とか、前からしたかった趣味をやってみるとか。
そうした別の角度でチャレンジしてみても、許しの効果が現れていて、思っていたよりもスムーズに事が運んだり、色々なサポートがやってきたりします。
そうして、繰り返し許しつつ、時には目先を変えつつチャレンジしていくと、徐々に今の問題が氷解していくようになります。
これも一気に事が片付くことはあんまりありませんね。
少しずつ変化が現れて、気が付けば問題がなくなってた、ということも多いです。
あなたが何かうまく行かないな、と思ったとき、あるいは感情的にどうしても抵抗のある何かがあるとき、それは「今、誰かを許すとき」かもしれません。
この許しのプロセスもいきなり最初からうまく行くわけではありませんので、自分なりのペースで、じっくり時間をかけながら進んでいきましょう。
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